水神クタアト

2pt   2018-08-03 14:46
都市伝説・・・奇憚・・・blog

418名前:⑦⑦⑦ 2018/08/02(Thu)20:18:29
225:1/5:2007/10/10(水)21:15:16ID:DnvRUKybO
僕の友人に、古美術商を営んでいる人がいる。坂の途中に店があるから、通称『坂さん』。
友人といっても歳は10歳以上離れているし、月に2、3回会うか会わないかといった程度だから、僕は彼については、名前と職業とあるひとつの厄介な趣味以外は殆ど知らない。

それで彼の趣味というのが、まぁ予想はついていると思うがオカルトで、そもそもそれが高じて、古美術の名を借りた魔術道具まがいの店を始めたらしい。
おかげで彼の店は、いつ行っても不気味な雰囲気が漂っていた。
自称武久夢二の絵なんかも飾ってあるのだけど、明らかに逆効果になってたし。

ある日、彼から電話がかかってきた。凄い物を仕入れたから見に来いと言うのだ。
丁度試験明けで暇だったので、僕は学校帰りに彼の店を訪ねることにした。



419名前:⑦⑦⑦ 2018/08/02(Thu)20:22:37
226:2/5:2007/10/10(水)21:16:58ID:DnvRUKybO
彼は年期の入ったレジスターに肘をつき、テレビでワイドショーを見ていた。
「坂さん、こんにちは」
声をかけると、日に当たらないせいで真っ白な顔がこっちを向いた。
「ああ、いらっしゃい」
客商売にまるきり向いていない無愛想な声で坂さんは答えた。
「そこら、適当に座り」

僕が店の空いているスペースに適当に座ると、坂さんはレジスターの下の金庫から一冊の本を取り出した。
古ぼけた洋書だった。日に焼け、虫食いやよく分からないシミがところどころについていた。
金文字のタイトルは読めなかった。
「なんすか、これ?」
「水神クタアト」
「……なんすか、それ」
坂さんの答えに、僕はもう一回同じ質問をした。
坂さんはつまらなそうに説明してくれた。

「ラヴクラフトが小説ん中で言及した魔導書……いや、ラムレイやったかなぁ。とにかく、現実には存在せん本やね」
「は?じゃあこれは?」
「どっかのマニアが自分で作った、同人誌みたいなもんやと思う」
ほら、と坂さんが見せてくれた本のページは真っ白だった。



420名前:⑦⑦⑦ 2018/08/02(Thu)20:24:38
227:3/5:2007/10/10(水)21:18:21ID:DnvRUKybO
「装丁作ったんはええけど、内容が分からんかったんやろね。全ページ白紙やったわ」
確かに、おしまいまでページをめくってみたが、全く何も書かれていなかった。
一体これのどこが『凄い物』なのか。落胆する僕を見て坂さんは笑った。

「以上が前の持ち主の説明。そんでこっからが、僕の説明。なぁ、その本、やたら紙が分厚いと思わん?」
確かに、一ページ一ページがまるでボール紙のように奇妙に分厚かった。
坂さんは僕から本を取り返すと、初めの方の一ページを破った。
そして呆気に取られている僕を尻目に、イカの皮でも剥ぐみたいに、破ったページを剥いだ。

やったことある人なら分かると思うけど、段ボールとかお菓子の箱の紙とか、薄い紙を何枚も重ねてあるような紙を一枚一枚剥く、あんな感じで。

ただ違ったのは、ページは元々大きな一枚の紙だったものを、折って重ねた物だったということだ。
だから坂さんの行為は、『剥ぐ』より『開く』の方が正しいのだろう。
開いた中――折り畳まれていた内側を、坂さんは僕に見せてくれた。



421名前:⑦⑦⑦ 2018/08/02(Thu)20:26:53
228:4/5:2007/10/10(水)21:20:02ID:DnvRUKybO
くすんだ赤色で書かれた筆記体の文章と、訳の分からない図。
読み取れるものは何一つ無い筈なのに、目にした瞬間に強烈な不快感が体を襲った。
これは見ちゃいけないものだ。本能が僕に訴えかけた。
必死で目を反らした僕を笑い、坂さんは紙をひらひらと動かした。

「反魂の秘術――らしい。ラテン語やからよう読めんかったけどね。インクに血が混ざっとるみたいやし、少なくとも書いた本人は本気やったんやろ。君の反応からしたら本物っぽいわ」
と嬉しげな坂さんの声を聞きながら、僕はただただ早く帰りたかった。

さて、これだけでも僕にとっては気持ち悪い話なのだけど、実は後日談がある。



422名前:⑦⑦⑦ 2018/08/02(Thu)20:29:10
229:5/5:2007/10/10(水)21:23:11ID:DnvRUKybO
本を見せてもらってから一週間ほど経ったある日の朝、また坂さんから電話がかかってきた。
すぐに来いと言われたので、学校をサボって僕は店に行った。

まず最初に感じた異変は、臭いだった。坂さんの店に近付くに連れて、魚が腐ったような強烈な臭いがするのだ。
店はもっと酷かった。引き戸のガラスが割られ、店内は滅茶苦茶に荒らされていた。
自称武久夢二の絵も破かれていたし、テレビは画面が割れてブラウン菅が見えていた。
おまけに、バケツでもひっくり返したかのように、店中が濡れていた。

坂さんは相変わらずレジスターに肘をついて、動かないテレビを眺めていた。
僕に気付くと、坂さんはバケツと雑巾を引っ張り出してきて、僕は片付けを手伝わされた。
そのために呼ばれたらしかった。

「なにがあったんすか!?」
「泥棒」

落ち着き払った様子の坂さんに、僕はそれ以上何も聞かなかった。
何が盗まれたのか見当はついたし、誰が盗んだのかは、床といわず壁といわずこびりついている魚の鱗を見れば、考える気も失せた。

代わりに、壁を雑巾で拭きながら、
「意外と早くバレてもうたなぁ」
と呟く坂さんとの付き合い方を、少し本気で考えた。


(※⑦⑦⑦さんからの投稿です。ありがとうございました)




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